2015年08月23日
営業活動日記 「他人の土地の取得時効のお話」

皆様、こんにちは。不動産鑑定士の松本智治です。

今回は、一定期間他人の土地を占有し続けた場合に
自分のものとするこができる「時効取得」の制度について
お話ししたいと思います。


資格試験などで民法の科目を勉強した人であれば、
この他人の土地を一定期間占有し続けていれば、時効の効果により自分のものにできるという
内容をご存じかと思います。
特に、他人の土地の所有権を取得できるという法律上の内容はとても刺激的ですので、
他の民法の内容は忘れても、この内容だけは覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか(笑)。

民法の規定によれば、例えば隣接した土地に関し、その占有を開始した時点で善意かつ無過失であれば
占有開始から10年で、また、悪意または過失があるならば20年、占有をし続けていれば自分のものとして
主張できるわけです(所有の意思をもって、平穏かつ公然に占有するという要件もあります)。

実は、不動産取引を数多く行っていますと、この制度の援用に関わる状態であることも少なくありません。
長く住み続けた土地建物を売却したいと相談を受けた時に、その建物の一部が基礎の部分から
隣接地にかかっていた、あるいは、建物基礎の部分まではかかっていなくても、庇や雨樋部分が隣接地に
越境しているケースなどはかなり頻繁に見られます。
そして、その越境状態は少なくとも20年以上前から続いているのです。
しかしながら、この所有権の取得時効制度、実際にこの制度を援用するというのは、
実務面では非常に困難、かつ、援用を考えること自体が問題であることが少なくありません。
知り合いの弁護士の方もおっしゃっていましたが、この取得時効の援用はきちんと法的手続きを踏まなければならず、
実際の裁判の場ではそう簡単には取得時効を認めないとされます。

それ以上に、この制度の援用を、我々不動産取引の専門家がご相談者に勧めること自体にも非常に問題があります。
と言いますのも、この取得時効の制度を援用し、隣接地の所有者に対して、この越境部分の土地はもう自分のもの
ですよ、などと主張しようものなら、怒りを爆発させて反論してくるでしょう。
境界紛争は100年戦争といわれるように、このような隣接地紛争は子供や孫にも語り継がれ、
おおよそお隣さん同士の正常なお付き合いをすることはできなくなり、また、その土地を買った人も、
少なからずこの紛争によるしこりを引き継ぐことになるからです。

従いまして、我々の立場からは、この取得時効を援用しましょうなどと、いたずらに助言することはまずありません。
但し、このような制度があることは、お客様にはあらかじめきちんと説明する必要はあるかと思います。
そのうえで、取得時効の援用をすることは、すなわち、長年に亘る隣接地紛争を勃発させることになり、
不動産そのものだけでなく、人間関係そのものにも欠陥を備え付ける行為となりうることをあらかじめ
きちんと説明すべきと考えます。

他方で、この取得時効を援用すべきと考えられるケースとしましては、例えば、建物の一部が隣接地に
長く越境した状態である場合に、越境した隣接地の一部を正式に買い取らせて欲しいと提案したところ、
逆にその隣接地の所有者から、土地は売らないから建物の一部をすぐに取り壊せと主張された場合などが考えられます。

いずれにしましても、我々のようなある分野の専門家というのは、お客様に対して事前に必要かつ充分な
内容の説明をいかにできるかにかかっています。
そのコンサルティング内容を日々充実、研鑽させてゆく努力こそがますます望まれている時代だと思います。

本日はこの辺にて。今後とも、宜しくお願い申し上げます。


 

非公開物件見てみませんか?